手術の傷は、術後に正常の状態に回復するまで約6ヶ月から1年程度かかります。傷がどのように治って行くのか時間の経過を追って紹介します。
傷を目立ちにくくするためには、①傷にかかる緊張(引っ張られる力)を少なくする、②摩擦(擦れる力)を少なくする、③紫外線があたらないようにすることが大切です。
手術をするのはやむを得ないとわかっても、「傷跡はできるだけ残したくない・・・・・・」と思う方は少なくありません。そうした声に応えて、傷跡を目立ちにくくする工夫をした治療も行われています。手術の傷をふさぐ方法には実際にどのような方法があるのかについて紹介します。
●針糸による縫合
手術で追った傷の部分を縫い合わせて塞ぐ方法です。針を使って傷に糸を通して結びます。
●皮膚用ホッチキス(スキンステープラー)
傷の部分を合わせて上からスキンステープラーと呼ばれるホッチキスの様な針で固定する方法です。傷口がふさがった後、その針を抜去する必要があります。
●皮膚用テープ
傷の部分を合わせて上からテープで固定する方法です。浅くて小さな傷に対して可能です。
術後の傷跡を目立ちにくくする手法が広まりつつありますが、その一つが真皮縫合(しんぴほうごう)です。皮膚は「表皮」「真皮」「皮下組織」の3つの層に分かれています。真皮縫合は、皮膚の中でも最も強くて固い真皮の部分を縫い合わせる方法です。傷にかかる緊張を和らげることで傷あとを目立ちにくくすることが最大のメリットです。
●傷あとが目立ちにくい
真皮縫合は、皮膚の表層にある表皮部分ではなく、深部の真皮を縫合します。通常は吸収される糸を用いて縫合し、抜糸する必要がありません。縫い目や結び目が皮膚の表面に出ないため、縫合糸の跡が残らず傷が目立ちにくくなります。
●傷口が開きにくくなる
皮膚の深部を縫合し抜糸しないため、傷口が開きにくくなり、傷のトラブル予防にもなります。
●痛みや不快感が緩和される
傷の程度によりますがフィルムが傷口を固定しますので、外からの刺激や傷自体の動きが緩和され縫合やステイプラーと比較して痛みや不快感を緩和できる可能性があります。
最近では縫合材料の進歩により、結び目を作らずに真皮縫合が可能な方法も開発されていることをご存じでしたか?結び目が無く、傷を均一な力で縫合できるため、綺麗な傷跡にすることが期待されています。
「真皮縫合」をした後の表皮に「皮膚用接着剤」を使う方法もあります。お腹の手術の傷は、「真皮縫合」+「皮膚用接着剤」という組み合わせで行い、「皮膚用接着剤」単独の使用はしません。皮膚用接着剤とは病院で医師により使用される医療用接着剤ですが、様々なメリットがありますので、それぞれの特徴と合わせて紹介します。
●傷あとが目立ちにくい
しなやかなフィルムで傷口表面を覆います。縫合やステイプラーと比較して、糸やホッチキスのような針がないため、術後の傷あとが目立ちにくくなります。フィルムは自分でこすったり、はがしたりしなければ、自然にはがれ落ちるまで傷口を覆ってくれます。他の薬を塗ったりすると、フィルムが弱くなることがありますので注意が必要です。
●皮膚表面の抜糸が不要
皮膚の表面を縫う必要がないので、それに伴う抜糸が不要になります。
●痛みが緩和される
傷の程度によりますがフィルムが傷口を固定しますので、外からの刺激や傷自体の動きが緩和され縫合やステイプラーと比較して痛みを緩和できる可能性があります。
●シャワーが浴びられる
フィルムが傷口を覆っているため、治療後シャワーも可能です(シャワー浴の可否については医師にご相談下さい)。汗をかいたり、シャワーなどでフィルムが濡れた場合は、乾いたタオルでフィルムの上をやさしく拭いてください。ただし、入浴や水泳などの長時間フィルムを濡らすことは避けるようにしましょう。
せっかく最適な治療を受けたのに、手術の後に無茶をして治りを遅らせてしまった・・・なんてことは避けたいものです。皮膚の治療中に以下に気を付けましょう。回復を早めるのも遅らせるのも、日頃のちょっとした心掛け次第です。
● 傷口はできるだけ汚さないようにする。
● 傷口をかいたり、こすったりしない。
● 傷口に紫外線があたらないように保護する。
● 激しい運動や作業はさける。
● 病院で傷の処置を行っている場合、自分の判断で治療を中止しない。
自治医科大学さいたま医療センター 形成外科教授 山本直人先生 監修